16年の世界の10大リスク 「2016年Top 10 Risks」 メモ

16年の10大リスク、欧州問題が引き続き上位 米調査会社 


【ニューヨーク】政治リスクの調査会社ユーラシア・グループは4日、2016年の世界の「十大リスク」を発表した。首位は「同盟の空洞化」で大西洋を挟んだ欧米の同盟関係が弱まり、世界の安全保障システムが揺らぐ可能性を指摘した。2位には欧州の閉鎖性、3位にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立で影響力を増す中国を挙げた。


 国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる同社が毎年発表する予想は、市場関係者の注目度が高いことで知られる。15年は「欧州の政治」を最大のリスクと予想。実際に15年にはギリシャの債務危機、テロや移民問題が起き、欧州の政情は不安定だった。

 16年も引き続き欧州がリスクの火種とみる。「米国の単独主義と欧州の弱まりで(従来の)同盟関係が損なわれる」と指摘。ウクライナやシリアへの対応に開きが出てくる一方、英国は中国、フランスはロシア、ドイツはトルコと関係を深める可能性があるという。

 欧州では過激派組織「イスラム国」(IS)への恐怖から各国の閉鎖性が高まり、欧州26カ国を国境検査なしで移動できる「シェンゲン協定」が崩れる恐れがあると予想した。

 ISについては「イラクとシリアを超えて拡大し、新たなテロの脅威は高まり続ける」との懸念を示した。16年はIT(情報技術)関係者が政治的な発言力を増し、国の政策に影響を及ぼすとも予測した。
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ユーラシアグループの「2016年Top 10 Risks」は発表です。


1.The Hollow Alliance

2.Closed Europe

3.The China Footprint

4.ISIS and "Friends"

5.Saudi Arabia

6.The Rise of Technologists

7.Unpredictable Leaders

8.Brazil

9.Not Enough Elections

10.Turkey

* Red Herrings


○以下、勝手な訳を付けておきます。


(1)同盟の空洞化

――過去70年間にわたって最重要だった大西洋同盟は弱体化した。ロシアのウクライナ侵攻やシリアでの紛争により、米欧間の亀裂が深まった。そうなると国際的な救助隊は存在しなくなる。これでは中東の大荒れは必至。


(2)閉ざされる欧州

――2016年の欧州は開放と閉鎖の両方向に引き裂かれ、格差と難民とテロと政治圧力が欧州の理念に立ち塞がる。英国のEU離脱リスクを過小評価するなかれ。経済は統合されたままでも、その他の分野はそうでなくなるだろう。


(3)中国の足跡

――たとえ穏やかなものであっても、中国の発展は世界中に波紋を投げかけている。中国は世界で唯一、グローバルな戦略を持つ国。最重要な国が最も不安定である、という認識は、準備のない他の国々を苛立たせる。


(4)ISISと仲間たち

――世界最強のテロ集団ISISは、不適切な対応も相まってナイジェリアからフィリピンまで賛同者を広げている。彼らが狙いやすいのは仏、露、トルコ、サウジ、そして米国。そしてスンニ派が多いイラクなどもご用心。


(5)サウジアラビア

――サウジ王国は今年、王室内の不一致で不安定さをまし、中東での攻撃姿勢を強めるだろう。先代のサルマン王時代には考えられなかった内紛の脅威が高まっている。サウジの心配は間もなく制裁が解除されるイランだ。


(6)先進技術の台頭

――さまざまな非国家アクターが、技術の世界から政治の世界に参入している。シリコンバレー企業からハッカー、引退した篤志家まで、野心的な技術家たちの台頭が政府や市民の退場を迫り、政策や市場の不安定さを増す。


(7)予測不可能な政治家たち

――ロシアのプーチン、トルコのエルドガン、サウジのサルマン副皇太子、そしてウクライナのポロシェンコなど、風変わりな指導者が国際政治を引っ掻き回す。1人なら単なる邪魔者だが、4人では不安定性だ。


(8)ブラジル

――ジルマ・ルセフ大統領が生き残りを目指す間に、国家の危機は深まる。大統領弾劾では今の混迷は解消しない。ルセフが生き残れば経済改革への推進力は失われ、居なくなればテメル副大統領には荷が重い。


(9)選挙が足りない

――2014年、15年は新興市場の選挙が相次いだ。ところが16年はその機会が少なく、国民の不満を深めるだろう。新興国では過去10年の収入増加により、国民の要求水準が高まっている。


(10)トルコ

――エルドガン大統領は与党の大勝後、議会制システムを大統領制に替えようと図る。しかしビジネス界や投資環境は悪化。安保面ではクルド勢力の制圧やISIS掃討への見込みは薄く、逆にテロ攻撃の危険は高まる。

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ユーラシアグループの「2016年Top 10 Risks」16年の10大リスク について
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『2016年 世界の10大リスク』 メモ ある意見

私は昨年4月『将来起こり得る世界のビックイベント』というブログの中で、国際「政治学者イアン・ブレマー氏が率いるコンサルティング会社のユーラシア・グループ」が公表した「2015年世界の10大リスク」の次の3点、「(5)イスラム国の拡大リスク」「(8)中東におけるイスラム教スンニ派とシーア派の対立の深化とサウジアラビアとイランの緊張リスク」「(10)トルコ・エルドアン大統領の強権的な政治手法がもたらすリスク」を引用して御紹介しました。

そしてそれに続けて、短期的・中期的・長期的に此のイスラム国の行方が如何なるリパーカッションを世界に起こして行くのか非常に不安に駆られる部分があると述べたわけですが、上記(8)については年初より急にクローズアップされてきています。いま当該地域で見られる動きとは5年前、北アフリカのチュニジアで発生した反政府デモに端を発し中東・北アフリカ諸国に拡大した「アラブの春」の如きところにまで影響を及ぼしてくるリスクがあります。先月のブログでも指摘した通り、アラブ諸国は原油価格下落による財政悪化の埋め合わせに保有株をなし崩し的に売却する動きをみせてもいるわけで、やはり王族支配そのものにつき様々な意味で注視して行かねばならないものと思います。

また4日に公表された「2016年世界の10大リスク」でも「サウジ情勢」が第5位とされていましたが、その他ユーラシア・グループは今年「最大のリスクとして、第2次世界大戦のあと国際情勢の基調となってきたアメリカとヨーロッパの同盟関係が弱体化し、シリアやウクライナなどの紛争を解決する能力が失われていることを挙げ(中略)、これに続くリスクとして、難民問題やテロに直面するEU=ヨーロッパ連合が設立の精神に反し閉鎖的になるおそれがあることや、中国が世界経済で重要な存在となりながら各国との関係がなお不安定であること、さらに、過激派組織IS=イスラミックステートによるテロの脅威の拡散などを挙げていま」した。

 私は色々なメディアで発信される当該グループのプレジデント、イアン・ブレマーの見解に関し比較的評価している一人であり、いつも傾聴に値するコメントだと思って見ています。今回の10のポリティカルリスクの類全ても確かに、御尤もな話だと思っています。私自身、彼に個人的に御会いし彼に意見を様々伺うことも結構あります。彼はメディアで「国際政治学者」と言われることが多いですが、一つの社のトップですから余り学者といった感じもしない人物だという印象があります。

 第一位のリスク「同盟の空洞化」で言えば、ブレマーが「米国の単独主義と欧州の弱まりで(従来の)同盟関係が損なわれる」と指摘されるように、欧州は欧州で常にぐらぐらしている一方で米国自らが「世界の警察」としての役割をある意味放棄しつつあるという状況下、同盟関係が揺らぐところまで行かずとも以前程には緊密なものではなくなってきているのも事実でしょう。

 第二位のリスク「ヨーロッパの閉鎖性」で言うと、やはり「シェンゲン協定…欧州諸国間において人の移動の自由を保障する協定」の維持・運営がある意味難しくなる局面も出てきましょう。何故なら既にフランスで大規模なテロがあったこともあり、今後もそうしたテロの可能性があることからEU各国はかなり神経質になっています。特に、現在EUで大問題になっているシリアを中心とした難民の中に、ISのメンバーが紛れ込んでくるリスクもあるからです。

 欧州の場合とりわけ昔から根強く見られるのは、こうした問題が起こってくると必ず右翼系の連中が騒ぎ出して選挙に出て勝利を収め、彼ら自身がある程度のポリティカルパワーも握って行くということです。それが局限状態に達したのがユダヤ人を徹底的に排斥した「ナチズム」でありますが、「ハイル、ヒトラー」(ヒトラー万歳)と叫び「ネオナチ」と称される人々が未だいるのも現実です。ドイツはじめ欧州各国でも今、シリア難民を受け入れたりもしています。しかし、あの第二次大戦時に対ユダヤ人という形で動いていたものが、もしこれからISによるテロが起こった時に今度は対イスラミックでも段々と過激化してくるリスクはあります。

 第三位のリスク「中国の存在感」で述べるならば、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立で影響力を増す」云々というよりも、圧倒的な規模の人口及び経済力を持つに至っている中国は今後もAIIBの正否に拘らず、何事にも大きなインパクトを世界に対し与えて行くことでしょう。但し、問題点としてより重要視すべきは、中国のポリティカルスタビリティーが如何なるものかということです。即ち、チャーチル英国元首相が言われたように「成長は全ての矛盾を覆い隠す」ことになっているのが実相です。先月も中国概況をテーマにしたブログに書いた通り、中国の実質GDP成長率は15年7~9月期に前年同期比6.9%増と09年1~3月期(6.2%)以来の低水準を記録しましたが、ここから10~15年の先を見通したらば段階的に下落して行くと予想されます。

5年位ずつのタームで見ても、10年後には5%台になり15年後には4%台になるといった中で、現在中国が抱える様々な問題が顕在化してくるリスクが生じてき、どう政治的安定性が損なわれて行くかが非常に大事なポイントになります。それでなくても中国という国は、50以上の民族を抱える多民族国家でチベット等の少数民族が宗教上の理由もあり強力な反政府的勢力として出現する要素もあるわけで、今日まで続いてきた共産党の一党独裁体制が崩れた(そう簡単には崩れないでしょうが)としても何ら不思議ではありません。ここ1~2年というタームで見れば、直ぐにそうした事柄が起こるとは思いませんが、もう少しロングタームで見てみれば、中国の経済成長が減速してくるとはある意味今後の世界情勢を左右し得る最大のリスクになるのかもしれません。

 最後に私が本年最大のリスクと考える米国の大統領選挙の行方、即ち「トランプ・リスク」につき簡単に触れておきます。あるエコノミストに拠れば、「ともに40歳代のクルーズ氏かルビオ氏のどちらかが最終的に共和党の指名争いで勝つだろうという見方が専門家の間では根強い」とのことですが、独走状態続くドナルド・トランプが勝たないとも限りません。直近の共和党内の支持率で言うと、約40%のトランプに対し第二位のテッド・クルーズは15%程度に過ぎません。「イスラム教徒の米入国禁止案」等々、唐突で突拍子もない持論を展開するトランプが次の米国大統領になるとすれば、何がどう変わるかが全くの未知数でそれが最大のリスクになるでしょう。
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